舘野渚 初めて参加したドラムサークル for ウェルネス

舘野渚 初めて参加したドラムサークル for ウェルネス

「ドラムサークル for ウェルネス」に参加してきました。土日2日間のうち土曜日の参加とあいなり残念でしたが、それでもとても充実したものになりました。
 
ウェルネスという言葉を初めてを聞いたのは大学1年の時で、新入生全員が受けなければいけない保健のような講義のタイトルが「ウェルネス概論」だったかと記憶しています。
その時はピンと来なかったのですが、長じて30を過ぎてから勉強を始めた福祉の世界ではそれをウェルビーイングと呼んでおり、思わぬ再会となりました。これはなかなか直訳は難しいのですが、精神的にも肉体的にも社会・経済的にも健康的な状態みたいな概念であっているかと思います。
 
というわけで、このたび参加したのは、ドラムサークルを医療・福祉・教育などの分野で生かしていくための運用を学ぶためのものなのですが、たまたま今私が調べていた精神療法との共通性も多くあり、「太鼓が好きで何度か参加させてもらった」という程度しかドラムサークルを知らない私でも、非常に多くに気づきがありました。。
 
この日は、ファシリテーター協会の飯田和子理事による高齢者施設における実践と、アメリカからお招きしたリサ・コリーンさんによるメソッドをそれぞれ紹介する二部構成。どちらも初心者の私には驚きの連続だったのだけれど、特に飯田さんが見せてくださった福祉施設の現場の動画には、心打たれるものがありました。
 
認知症の方が入所されるグループホームでのドラムサークルであっても、一人一人に叩いてもらう場面(一人がカウベルを叩いてもらいみんながそれを真似するというソロ回し)が、ちゃんと成り立っていました。かなり症状が進んでいる方でも、ソロが回ってくるというのは理解できるのだそうです。
 
もちろん、あまり乗り気でない人もいます。その場合の対処のコツは、無理強いをさせないことと、職員が介添えして叩かないことだとそうです。スティックを握ってくれるところまで行けば、あとはカウベルを下からあててやることにより、音を体験させてみる。不思議なことに、職員が腕を取って叩くよりも敏感に音に反応し、次は自ら叩いてくれることがあるといいます。
 
主体性という概念をひっくり返されたような気がしました。動作的には何もしていないのに、完全に待っているだけなのに、なぜそこの扉をスゥッと開くことに繋がったのか。「わからない」ということから発生する壁をこんなにも簡単に壊せるのか、という純粋な感動がありました。個人的には、この日の一番の衝撃だったように思います。
 
午後のリサ・コリーンさんのメソッドは、元々体育教師であるという彼女らしい、楽器だけでなく身体に焦点を当てたプログラムが多かった。日本で使う「お好きにどうぞ」は元々は「Back to the Groove」なんだという衝撃…。ある意味逆のベクトル(「それぞれどうぞ」と、「みんなに戻る」)という感じがしたので、そこからして与える影響がかなり異なることに驚きました。
 
純粋に参加者として楽しかったのですが、リサさんが、その前提として自分がドラムサークルに関わり始めるきっかけについて、さらりとお話ししてくれたのも印象的でした、いわく、自分のお子さんの問題行動への対処として学び始めたのが入り口だったとのこと。効果を実感してからのスタートというのはかなり大きかったのではないかと思われたし、しみじみとその人の全体像がわかることの大切さも感じました。
 
一人一人の個性を尊重しつつ、正しいとか間違ってるとかの基準がないドラムサークルは、音楽を長くやっている人こそ衝撃が大きいかと思います。私は今のところその近くで眺めているだけなのだけれど、そういう参加の仕方も許してくれる協会の存在はとてもありがたく、これからも時々体験させてもらえたらと思います。
 
舘野渚